光の旋律 第五章 影の目的


 その顔を見るのは、もう三度目だ。油断していた俺を急襲した一度目、王宮で剣を交えた二度目、そして今。
「ネイ。そんなに暴れなくても大丈夫だ、落ち着け」
 その男――シェイド・ローウェルは、狂ったように攻撃魔法を放っていたネイ皇女の動きを止めさせた。落ち着きを取り戻した顔で、ネイ皇女はシェイド・ローウェルを見上げる。
「……ごめんなさい。でもこの人達、レゼルの人だったようだから」
「俺はその程度のことで動揺するような落ちぶれた騎士じゃないさ」
 シェイド・ローウェルはタトゥ皇国の騎士に歩み寄り、何かを手渡した。何とそれは、先程盗難があったと聞いた、魔石のブローチだった。男性騎士は目を剥く。
「貴様、ダヌアの騎士だろう! 貴様が盗んだんだな!? 今更返したからといって罪は消えないぞ!」
「それを語るつもりはないさ」
 自分とネイ皇女を捕らえようとする騎士を、シェイド・ローウェルは剣を抜いてあしらう。シェイド・ローウェルの剣の腕は圧倒的で、彼に勝ち目はなさそうだった。
「待て、シェイド・ローウェル」
 グレイシア教官が呼び止めると、騎士を叩きのめしたシェイド・ローウェルが振り返る。
「魔石を盗んだのは貴様ではないのか? ダヌアは何が目的なんだ」
「誰にも言うつもりはなかったんだがな、アンタはいい女だから特別にヒントをやるよ」
 抜いた剣を腰に戻して、シェイド・ローウェルは言った。
「俺の目的は、ダヌア皇族の呪いを解くことと、数百年前の竜の復活を阻止することだ」
「呪いと竜?」
「俺だってむやみやたらに争いを起こして喜んでいるほど悪趣味じゃない。これが俺の夢への一番の近道だと、俺には俺の信念がある」
 真剣な目で言い、シェイド・ローウェルはネイ皇女の肩を抱いて踵を返した。そんな彼をグレイシア教官は更に引き止めようとする。
「待て。詳しい話を聞かないとわからないが、貴様の目的がナフィティアの安寧に通ずるなら、私達は手を取り合えることもあるかも知れない。一度話をしてはみないか?」
「甘い女だな、アンタは」
 シェイド・ローウェルは肩に掛かる髪を払って笑った。
「まあ、アンタらとは奇しくも長い付き合いになりそうだ。利用できる時は利用してやるよ」
 それだけ言って、シェイド・ローウェルはネイ皇女を連れて去っていった。