光の旋律 第四章 手掛かり


 その日、私は深夜まで王宮と騎士寮の間を駆けずり回った。
 騎士団の仲間と一通りの情報を共有し合い、警戒態勢のままではあるが少しばかり仮眠を取ろうと思った時、私は団長に呼び出された。作戦室には、ルーク団長と、王宮に仕える魔女の筆頭であるサントリナさまが待っていた。
「サントリナさまが先程新しく情報を掴んでくれたようでな。お前にも聞いてもらいたい内容だ。サントリナさま、お願いいたします」
 ルーク団長に促されて、サントリナさまが話し始める。
「一際強い魔力反応が、レゼル郊外の森からタトゥ皇国へと向かっていったわ。これはダヌアのネイ皇女の魔力波長と合致していると思うの」
 タトゥ皇国は、今日の舞踏会にも皇女が参加したはずの国である。どうやらシェイド・ローウェルはレゼルから離れようとしているらしい。
「ということで、だ。お前とエーデルシュタイン、それからあの二人にはそれを追ってもらおうと思ったんだ」
「しかし、それでは……」
 言葉を返しかけて、私は口を噤んだ。私は団長の意志に意見するような立場ではない。だがルーク団長はそんな私を見て言った。
「何か思うところがあるようだな。言ってみよ」
「……では、僭越ながら」
 私は一呼吸置いて口を開いた。
「私達は、旅に出る必要があるのでしょうか。あの時シェイド・ローウェルはアリアさまに危害を加えるつもりだったのかも知れない。こうなった以上、自国の守りを固めた方がよい気がしてなりません」
 私の言葉を聞いたルーク団長は、静かに頷く。
「その考えももっともだ。だが、私はな、グレイシア」
 ルーク団長がゆっくりと語り出す。
「レゼルの平和を護る、それは聖騎士団の最大の理念だ。しかし我が国の王は、ナフィティア全土をこの安寧の国に匹敵する穏やかなものにしたいとお考えの優しい方だ。いくらレゼルが平和でも、大陸に戦火が撒かれて笑っていられるお方ではない。そのお気持ちに応えるのは、今の騎士団ではお前が最も適任だと思ったんだ。だが、極秘任務はほとんど私の独断だ。言ってしまえば我儘に付き合わせているようなものかも知れない。だから、お前の意志を蔑ろにするつもりはない。お前がレゼルの為を思って居残る気ならば、それはそれで構わない」
 その言葉に私の胸は熱くなった。先を見据えた団長が、大きな志の下、私を選んでくれたのだ。
「失礼いたしました。迷いは晴れました、私は引き続きこの任務を遂行いたします」
「そうか、ありがとう。頼んだぞ」
 ルーク団長は微かに笑い、思いを託すように私の手を握った。
「流石に夜歩きは危険だ、明日以降の出発でいい。三人にも暇を見て伝えておいてくれ」
「承知いたしました」
 そうして作戦室を離れた私は、リヒト達を呼び出すことにした。



 そんなこんなで、午前二時。
「――ということなんだが、お前はどうしたい?」
 尋ねると、リヒトは躊躇いなく答えた。
「勿論、俺はグレイシア教官についていきます」
「そうか、助かる」
 私にとってリヒトは、未熟ではあるがとても頼もしい存在の部下だ。ついてくる気でいてくれて安心した。
「私もご同行させていただきたいです。ただ、戦闘では本当にお役に立てないので……お邪魔でなければですが」
 お休み中のところを叩き起こされたはずなのにいつも通り凛と背筋の伸びているフィーユさんが控えめに微笑む。
「俺は女が行くなら行くに決まってる」
 フィーユさんとは対照的に、気怠そうな寝惚け眼のオーガストが大きな欠伸をしながら言う。その緊張感のない姿に、良くも悪くも私の肩の力は若干抜けた。
「ありがとう、この仲間で旅立てるなら心強い」
 私が言うと、リヒトとフィーユさんは笑って頷き、オーガストはまた一つ欠伸をした。
「明日、昼前くらいにはタトゥ皇国へ向かって歩き出す。それまでに各自準備を頼む」
「はい!」
 それだけ言い交わして、私達はそれぞれの部屋へ散っていった。