光の旋律 序章 Case.03 Female Knight
その朝も城下町周辺の見回りをしていた私は、レゼルの平和にほっと息を吐いていた。
「グレイシアさま、おはようございます」
「お仕事、頑張ってください!」
時折国民から掛けられるあたたかな声。
「ああ、ありがとう」
それらに手を振って答えながら見回りを終え、私は騎士団の寮へと戻った。
「グレイシア」
寮に帰った私を呼び止める声があった。その声の主は騎士団の団長だった。
「団長。ご用ですか?」
「お前に任せたい任務がある。少し、いいだろうか」
そうして団長についていき、作戦室に通され、その「極秘任務」は私に託された。レゼル聖騎士団団長・ルークさまは、南の大国・ダヌア帝国に怪しい動きがある、といち早く睨んでいた。
自室へ戻ると、私はすぐさま作戦を立てた。
『騎士筆頭に匹敵する人員はこれ以上割けない。お前が優秀だと信頼する人材だけを集めて、旅に出るといい』
そう言って私に全てを託したルーク団長の為にも、抜かりのない分隊を作らなければならない。
優秀な人材、と考えてすぐに思い浮かんだのは新人のリヒトだった。士官学校時代から私は彼の騎士としての腕を買っている。誠実な人柄も充分信頼に値するだろう。
そして次に昔馴染みである麓の教会の神父さまの顔が浮かんだ。医療魔術に精通しており、自ら修道女らにそれを教示していることで有名な神父さま。彼に頼めば、医療魔術に長けた女性を一人紹介してもらえるかも知れない。
そうして私は部屋の電話を手に取った。
†
「初めまして。私はフィーユ・ブランシュと申します。よろしくお願いいたします」
「フィーユ・ブランシュさまですね。これから、どうぞよろしくお願いいたします。俺は、騎士のリヒト・エーデルシュタインです」
「同じく、グレイシア・セシルと申します。それで、そちらの方は」
「護衛代わりのオーガスト・エル・エスだ」
リヒト以外とは初めて顔を合わせるので心配もしていたが、フィーユさんは穏やかで優しそうな人だったので安堵した。しかし。
「行くんなら早くしろ、騎士ども」
予想外についてきた男・オーガストのふてぶてしい態度が、私の神経を逆撫でしてやまない。
「フィーユさん、どうしてあなたのような方が、こんな男を護衛になさったのですか?」
舗道を歩きながら、私はそう聞いてしまった。
「彼とはほんの少し前に会ったばかりなんです。私に恩を返したいって……そう言ってくださったので、同行していただくことにしたのです」
「え? ということはこの任務に至るまで面識がほぼなかったわけですか?」
「そうです」
何と怪しい男だ。私の中でオーガストに対する疑心が膨れ上がっていく。
「おい女ども、のろのろ歩くな」
少し先を行っていたオーガストが言う。
「貴様……っ!」
と怒り掛けた私をリヒトが遮る。
「ああ、オーガストさん、そんな言い方駄目ですよ。フィーユさん、慣れない道ですし、お疲れになりましたか? 俺らが歩調を合わせますので、ゆっくりでいいですよ」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
そう言って、フィーユさんはオーガストの元へ走り寄った。
「すみませんオーガストさん。私歩くの遅くて」
「いや、俺の言い方が悪かった。あんたを責めたかったわけじゃないんだ、許してくれ。それに女なんだし当然俺より歩幅小さいよな、あんた。疲れたら言え、俺が抱えて運んでやる」
「い、いえ、それは結構です」
ふてぶてしいかと思いきや、フィーユさんを気遣った様子も見せるオーガスト。私からすれば、オーガストのどこをどう信頼していいのかわからないが、フィーユさんはオーガストと接することをどことなく嬉しそうにしているので、無理矢理引き剥がすわけにもいかない。
何気なく、私はリヒトに話し掛けた。
「なあリヒト」
「はい?」
「フィーユさんはいい人だよな」
「そうですね」
「オーガストも悪い奴ではないのかも知れないが私とは反りが合わないからお前が緩衝材になってくれ」
「は、はあ……」
困ったような声で、リヒトは「頑張ります」と言ってくれた。