フユメキ。 バレンタイン小話 リコと真白の場合
朝。
「あー、リコ、おっはー」
「…………」
機嫌よく前から歩いてくるのは、私の数少ない友人・久世真白。そしてその手には沢山の可愛らしい包み。
そしてそんな久世の周りには、沢山の女子。
「真白先輩っ、これ貰ってくださいっ」
「これ、力作のチョコガナッシュです」
「ああ、ありがとー。皆、大好きだよ」
久世の決め台詞に、周囲から、きゃー、と黄色い声が上がる。
「全く。知らない女から何か貰って何が嬉しいんだかね」
私が吐き捨てると、久世は笑った。
「リコは愛想ないもんね。今年も全部突き返すつもり?」
「さあね」
「たまにはリコファンにもサービスしてあげなよ」
不意に、久世は「ああ、それともあれか」と手を叩いた。
「リコ、ほんとはもっと女の子扱いされたいタイプ? 『皆私を格好いいって言うけど、本当は私だって女の子らしくなりたいの……』って」
「何をふざけたこと言ってるんだ」
私は別にそんなんじゃない。ただ、こんな容姿と性格だからって、都合よく王子扱いされるのが嫌いなだけだ。
「まあまあ、そんな悩める乙女にはこれだ」
「だから、そういうのとは違うと――」
「はい」
久世は私に小さな箱を渡してきた。
「……は?」
「じゃ、まったねー」
ひらひらと手を振って去っていく久世をなす術もなく見送った後、その箱を開けてみた。
そこにはメンズライクなシルバーアクセサリーと、薄いメッセージカードが入っていた。そこにはこう書かれていた。
『貰う理由がないから、バレンタインは嫌なんでしょ? だったら私は仲間としてあんたにプレゼントします』
何だ。散々ふざけて、結局わかっているんじゃないか。
私は久世からのプレゼントをそっとポケットに仕舞った。
リコと真白の場合 - fin.