リヒトくんの誤解


「……――」
「――……」
 鍛錬から戻ると、部屋の中からオーガストさんとフィーユさんの話し声が聞こえてきた。
(あの二人って仲良いよなぁ)
 孤高のオーガストさんと、親しみやすく人当たりのいいフィーユさん。そんな二人は、対照的だけれど相性はばっちりだ。
 何を話しているのかな、と思いながら、ドアノブに手を掛ける。すると、聞こえてきたのはこんな会話だった。
「――じゃあ、触ってくれるか?」
(触る?)
「あ……、硬くなってますね……。大丈夫ですか? 辛くありません……?」
(硬い?)
「まあ、ちょっとな。……なあ、あんたの手で元に戻してくれよ」
「は、はい。頑張りますね」
 フィーユさんのその言葉から少し間を置いて、吐息混じりのオーガストさんの声がした。
「ん……、上手だな……気持ちいい」
 ――と。
(!?!?!?!?!?)
 断片的に聞こえた話の内容とオーガストさんの甘く掠れた色っぽい声に完全に変な想像が働いてしまった俺は、取り敢えず扉を開けようとしていた手の動きを止めたが、音を立てるのが憚られ、扉から離れることもできずにドキドキしながらその場にとどまった。すると。
「何をしているんだ、リヒト」
「ぐ、グレイシア教官……!」
 背後に、シャワーを浴びて戻ってきたらしいグレイシア教官が現れた。
「部屋に入らないのか?」
「い、今は、その……オーガストさんとフィーユさんがお取り込み中なんです」
 混乱した俺は訳のわからない説明をした。
「取り込み?」
「と、と、と、とにかく! グレイシア教官も二人の邪魔しちゃ駄目ですよ!」
 それだけ言って、俺はダッシュでそこから逃げた。



「何だ、変な奴だな」
 リヒトが逃げるように走り去ってしまったので、私は半開きになっていた扉から何の気なしにその部屋を覗いた。そこにはオーガストとフィーユさんがいた。
「あ、グレイシアさん、ごきげんよう」
 こちらに気付いたフィーユさんが微笑む。フィーユさんは、ソファに座るオーガストの背に回って、両手で彼の肩を掴んでいた。
「マッサージをしていたんですか?」
「ええ。オーガストさん、肩が凝っていらっしゃると言うので」
 オーガストの肩を揉みながら、フィーユさんはちょっと照れ臭そうに笑う。
「あー……女、そこ気持ちいい……もうちょっと強くしてくれ」
「はい、わかりました」
 お取り込み中、というのは肩揉みのことだったのか。
 しかしリヒトが何故あんなに顔を真っ赤にして狼狽えていたのか、それは私にはわからないままであった。


fin.
以前ブログで書いたオガフィユSSです。
何かこう、怪しい雰囲気を書きたかったのでした。
ひかりつメンバーが全員大人だったので書けた話ですね。